夢だけじゃ、厨房は回らない
30歳を過ぎ現状を打破すべく、僕は北海道のレストランで働いていた。
大自然の中、最高の食材に囲まれて、料理の理想を追いかけた日々──でも現実は、甘くなかった。
体力は限界、厨房の人間関係もギスギス、メニュー開発の意見も通らない。
そして自分の実力の無さの現実を知る…
ついに僕は、無断でその職場を辞めてしまった。
今でも後悔している。そのとき迷惑をかけた人たちの顔は忘れられない。
でも、この挫折がなかったら、今の僕はいないとも思っている。
「料理だけがうまくてもダメ」だった現実
北海道の経験で思い知らされたのは、料理の腕だけでは通用しないという現実だった。
・スタッフとの信頼関係
・オペレーションを理解する力
・自分の“エゴ”をコントロールすること
これらができなければ、チームは回らないし、良い皿も出ない。
どんなに素材が良くても、厨房の空気が悪ければ、料理には“余計な味”がつく。
挫折を経て、僕は「料理はひとりじゃ作れない」と知った。
再出発は、地元・小田原だった
地元に戻り、小田原でゼロからレストランを始めた。
築50年以上の古民家を改装し、たった14席の小さな店から再スタート。
厨房も接客も、仕込みも片付けも、最初は僕ら夫婦のみ。
だけど、自分の目の届く範囲で“丁寧に料理をすること”に集中できた。
北海道で学んだ反省を活かし、「スタッフとの関係性」「食材への敬意」「無理をしないバランス感覚」を何よりも大切にしている。
挫折が教えてくれた、本当の意味での“プロ”
料理人とは、単に「美味しい料理を作れる人」ではない。
• 仲間と信頼関係を築けること
• お客様と静かに向き合えること
• 自分の未熟さを受け入れること
これができて初めて、“プロ”になれるのだと今は思っている。
北海道では、それができなかった。
だから僕は、料理の技術以上に、「人間としてどうあるか」に向き合うようになった。
料理人として、生き直すということ
挫折は、恥ではない。むしろ、それを受け入れた時からが本当のスタートだ。
小田原のこの小さな店で、今日も僕は料理を作っている。
派手さはないけれど、自分の手と感覚を信じて、一皿ずつ仕上げていく。
あの日の自分に言いたい。
「逃げることは良いことではない。だけど、そこからどう立ち上がるかで人生は決まるし、苦しみづつけるよ」
