「Web5」とは何か──料理人には関係ない?
Web5(ウェブ・ファイブ)という言葉を耳にしたとき、正直こう思った。
「また新しいIT用語か」「飲食業には関係ないだろう」──でも、それは大きな勘違いだった。
Web5とは、自己主権型(Self-Sovereign)インターネットの構築を目指す、新しいウェブの概念だ。
ユーザー自身がデータの所有権を持ち、プラットフォームに縛られずに個人のアイデンティティをコントロールできる世界。
つまりこれは、「信頼」を中央の企業に預けない仕組みだ。
料理人という“信用商売”において、これは無関係ではいられない。
むしろ、“信頼”が個人単位で見える化される社会は、僕たちにとって大きなチャンスかもしれない。
「発信力」ではなく「人格力」が評価される時代へ
これまでのSNSは、「映える料理」「キャッチーな投稿」が評価されやすい世界だった。
でもWeb5の世界では、投稿ではなく“履歴”と“行動”が評価される。
つまり、「誰かにどう見せたか」よりも
「誰とどんな関係を築いたか」「どんな姿勢で仕事をしてきたか」
といったことが、個人の“信用スコア”として蓄積されていく。
僕のように、小さなレストランをやっていても、
・どの生産者と長く付き合っているか
・お客様からのリピート率
・スタッフとの関係性
などが透明なデータとして見えるようになったら、無名でも信頼される存在になれる。
「自己主権型ID」が飲食業にもたらす革命
Web5では「DID(Decentralized Identifier)」という概念が出てくる。
これは簡単に言えば、自分自身の“名刺”を、企業ではなく自分で管理する技術だ。
たとえば──
お客様が自分のDIDを使って、レストランの予約履歴やアレルギー情報、好みのワインを記録し、どこに行ってもそれを活かせるようになったとしたら?
料理人としては、お客様の“背景”に合わせたサービスをより深く提供できる。
データが企業に囲い込まれないことで、「一人の顧客に長く寄り添える世界」が実現する。
地方のレストランこそ、Web5で広がる
Web5は「東京」や「大手チェーン」に有利な仕組みではない。
むしろ、地方で地道に信頼を積み重ねてきた個人店にとって、光が当たる仕組みだ。
これまで「知られていない」という理由だけで埋もれていた個人の技術や人柄が、分散型ネットワークで可視化されるようになる。
僕のような小田原のレストランでも、“信頼”を通じて世界中のファンとつながる可能性が出てくる。
これは、大きなチャンスになり得るだろう。しかし、美味しいお料理を作るというだけでは生き残れないということでもある。
料理人は「職人」から「個人メディア」へ進化する
Web5の時代、料理人は単に“料理を作る職人”ではいられない。
自分の考え方、素材への向き合い方、お客様との接し方、すべてがその人の信用情報として蓄積される。
料理は「消えるアート」だ。
でも、その背景にある哲学や人間性は、Web5で“残るアセット”になる。
だからこそ、これからの料理人には、“料理”だけでなく“考え方”を表現する勇気が求められてくる。
