スタートは「誰にも知られていない店」だった
小田原の古民家を改装して、たった14席のレストランをオープンしたとき、お料理が美味しいのは当たり前、お料理だけでなくサービス・予約の受け答えなどバランスが必要だと考えていた。お料理がすごく美味しくてもその他がダメなら評価は悪くなる。
バランスを特に意識していた。
でも現実は甘くなかった。
最初の数ヶ月はガラガラ。予約が一件も入らない日もあった。今もある。笑
そんな中で、満席になるまでに僕がやってきたことを、実体験としてここで書いておきたい。
1.「誰のための店か?」を徹底的に考えた
まずやったのはターゲットの明確化。
僕の料理は、野菜をたっぷり使ったコース料理。派手な肉料理ではなく、季節の味や優しい火入れで勝負するスタイル。
すると、「ガツンと食べたい若者」よりも、「日常を少し忘れゆっくりと食事を楽しむ40代以上の大人」が向いていると気づいた。
そこからメニュー構成、内装、音楽、Instagramの投稿すべてを、そのターゲットに向けて整えた。
2.SNSは「映え」よりも“想い”を伝えた
SNSに力を入れた。といっても、流行りのハッシュタグや映える写真だけでは集客にはつながらなかった。
大切だったのは、「どんな想いでその料理を作っているか」を丁寧に発信することだった。
たとえば、地元農家さんとの関わりや、皿の構成に込めた意味を伝えるようにしたら、フォロワーがゆっくりと増え、徐々に共感してくれるお客様が予約してくれるようになった。
3.一皿ごとに「その人だけの演出」を仕込んだ
再訪してくださる方に「前回と同じではつまらない」と思われたくなかった。
だから、お客様の召し上がったコース内容やワインを記録し、その人に合うお料理を考えそれに合うワインを提案した。
アレルギーや苦手な食材を覚えておくのは当然として、ちょっとした味の傾向まで把握し、「この人にはこの調理法が合うな」という微調整を毎回やっている。
これが、お客様にとって「ここは自分のことを覚えてくれている店」になる鍵だった。
4.レストランの“世界観”をつくった
料理だけじゃない。空間・接客・時間帯すべてを通して「この店に来てよかった」と思ってもらうには、店全体に“物語”が必要だった。
・古民家の静けさ
・木の温かみ
・お皿の手触り
こうした細部が積み重なって、“世界観”になる。
料理はその中のひとつに過ぎない、と今は思っている。
5.「紹介したくなる体験」を意識した
最後の鍵は、紹介したくなる“余白”を残すことだった。
完璧なサービスよりも、ちょっとした驚き、心に引っかかる一皿、スタッフとの何気ない会話──そういった「余韻」が、人に話したくなる。
ありがたいことに、うちの店はリピーターの方の紹介で来られる方が多い。
紹介が紹介を呼び、気づけば予約が埋まるようになった。
まとめ──満席は「奇跡」ではなく「積み重ね」
特別な立地でもない。メディアに取り上げられたわけでもない。
それでも「また行きたい」と思ってもらえるには、料理とサービスと空間を信じて、地道に積み重ねていくしかない。
満席は、奇跡じゃない。
料理人としての覚悟と、小さな工夫の積み重ねが呼び込んだ「必然」だと、今は思っている。
しかし、そこに満足するのではなく日々トライアンドエラーを繰り返してくことが必要だと
繰り返し自分に言い聞かせている。

