キッチンは“見えない舞台”だ
僕のレストランは、古民家を改装した完全予約制の小さなお店。
キッチンからお客様の姿は見えずらい。
でも、僕はいつも“見て”いる。耳を澄ませている。感じている。
料理を出したあと、会話のトーン、箸の進み方、笑い声。
それらすべてが、僕へのフィードバックだ。
厨房は舞台裏。だけど、感情の通路はちゃんとつながっている。
皿の先にいる“誰か”を思いながら火を入れる
お客様の顔は、予約の名前と人数だけではわからない。
でも、来店時の声色や身のこなしで「今日は大事な日かもしれない」と感じることがある。
そんなときは、ほんの少し火加減を変えたり、仕込みにもうひと手間加えたりする。
「この人にとって、この皿が今日のハイライトになりますように」と思いながら。
料理は、皿の上の情報量だけで勝負していない。
“祈り”が味を変えることもある。
響く音、届く声──それが厨房の栄養になる
たまに、厨房までお客様の声が聞こえてくることがある。
「この野菜、甘い!」
「なにこの組み合わせ、最高!」
「次の皿、どんなのだろうね?」
そんな一言が、何よりもうれしい。
調理中の緊張感がふっとほどける瞬間。
「やっててよかった」と心から思える。
シェフの仕事は孤独だ。でも、お客様の“笑い声”が、それをそっと包んでくれる。
サービススタッフと共有する“空気”
僕の店は、ホールも厨房も少人数体制。
だからこそ、サービススタッフとの連携がとても重要になる。
「今日のお客様、ちょっと緊張してるみたい」
「ワインを選ぶとき、少し迷ってた」
そんな小さな共有が、料理の方向性を変えるヒントになる。
お客様のテーブルにいない僕でも、“空気”を感じ取れるように意識している。
それが、心に届く一皿につながる。
裏方の僕に届く「ありがとう」
営業が終わったあと、ホールスタッフが「●●様がすごく喜んでたよ」と教えてくれることがある。
ときには、手書きのメッセージやDMで「今日の料理、感動しました」といただくことも。
直接顔を合わせることはなくても、その言葉はちゃんと届いている。
そして、僕の明日のエネルギーになる。

